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【公演レビュー】中間アヤカ&コレオグラフィ「フリーウェイ・ダンス」1/3(竹田真理) | BLOG | NPO DANCE BOX

2019.6.28

【公演レビュー】中間アヤカ&コレオグラフィ「フリーウェイ・ダンス」1/3(竹田真理)

REVIEW

ダンスボックスの新たなプログラム「アソシエイト・アーティスト」(注:劇場が3年間に渡りアソシエイト・アーティストの活動をサポートする)に選出された中間アヤカの第一回目の公演は、劇場全体を巨大な庭に設え、ダンスのための「楽園」を創出した。様々な仕掛けやアイデア、願望を形にしたのはドラマトゥルクの藤澤智徳と、セノグラフィ担当の阿雲モナイ、田添幹雄だ。藤澤は中間と時間をかけて対話を行い、本公演へ向けて往復書簡を公開している。庭師でもある阿雲と田添は、書割ではなく本物の庭を出現させた。入口の足元には青竹を渡した仕切り=結界があり、「これを跨いだら、自由への第一歩」とアナウンスがある。

その一歩で会場内に入ると、壮観な眺めに驚かされる。空間のあちらこちらに大小の草木があしらわれ、客席フロアの中央には青竹、小石、切り株を敷いた通路が通されている。通路はそのままステージに上がる階段へ続き、ステージ上には灯篭、蹲(つくばい)、庭木を組み合わせた日本式の庭が作られている。通路を軸とした空間全体にはイスラム式庭園のようなシンメトリーな構図も見え、これは理想の楽園のイメージにつながっている。日本式の庭の周囲にはカフェの屋台があり、本棚があり、ミニチュアの家が置かれている箇所もある。何か所か、こっそり置かれたインスタントカメラは、見つけた人がこれでパフォーマンスを撮っていいことになっている。

空間を埋め尽くすように様々な趣向が施され、観客は飲み物を飲みながら、本を自由に手に取りながら、くつろいで過ごしてほしいと案内される。ステージ下の客席フロアには天井から7メートルのロープで吊られたブランコがあり、反対側にはイントレを組んだ2階建ての櫓がある。櫓の一階部分は中間の衣裳部屋になっていて、色とりどりの布が掛けられて部屋を覆っている。観客のために座布団や椅子も配されているが、基本的に回遊式で、好きな場所で好きな格好で見てよいという。寝転がってもOK。

こうしたことが中間自身のMCによる「こんにちは、ようこそおいでくださいました」との歓迎の言葉とともに案内され、観客は前半1.5時間、途中1時間のごはんの時間(ミャンマーカレーが振る舞われる)、後半1.5時間、合計4時間にわたるパフォーマンスの時間を過ごした。中間は会場内を移動しながら踊り、櫓の上で小唄をうたい、何度か衣装を着替えた。また「川を流したい」と言って観客の助けを借り、ペットボトルを繋ぎ合わせた簡単な装置にちょうど流しそうめんの要領で水を流した。「やかん」から注がれた水は装置を流れて「たらい」に注ぎ込み、中間はこれで衣装を洗濯し、ステージの上にロープを張って干した。そうして「皆さんのおかげで無事に川を流すことができました」と満足そうに述べた。これらのことが緩やかに、特別な見世物としてではないが丁寧に、すべて等価な行為として行われる。会場内のあらゆる仕掛けは、そこで起こる行為や出来事をありのままに言祝ぎ、中間と観客の間の「見る・見られる」の関係を解きほぐすようにはたらく。選曲された音楽が順に流れる。幼い子供たちが霧吹きを手に草木への水やりに夢中になっている。私はカレーを食しながら、遠くの街から見に来たという人と言葉を交わす。あらゆることが許され、肯定され、祝福されている。

この場所で観客らは、いわばスペクタクルの反転した状態の中におかれていた。ダンサーの身体の一点に集中する観客の欲望は、仕掛けに富んだ会場の全体に散らされていて、あらゆる細部がダンスへの契機を含んでいる。そこには熱狂ではなく寛容が、カタルシスではなく緩やかで間断のない時間の体験がある。契約の関係を超えた人格的な結びつきでこの場に関わっているスタッフたち、中間から直截の歓待やはたらきかけを受ける観客がいる。彼ら彼女らは暗い客席で舞台に対峙する人称のない一観客とは異なる存在だ。これらがひとつの親密圏を形成し、劇場の制度を無効にするようなオルタナティブな場を作り出そうとしていた。

中間にとってこうしたオルタナティブな場への志向は、自らを強くダンサーと任ずる自身の意思と切り離せないものと考えられる。振付家でもダンスアーティストでもなく、敢えて「ダンサー」と名乗る中間には、たとえば村川拓也の『エヴェレットラインズ』(*)で自身のプロフィールの職業欄に「ティッシュ配り」と記すような確信犯的なところがあり、それが後期資本主義も詰んだかに見える今の日本で、ダンサーとして生きて/食べていくことの希望と絶望のあいだの闘争を生む(**)。中間にとって、このオルタナティブで自由な楽園『フリーウェイ・ダンス』は、自身の実存を掛けた闘争とネガ/ポジの関係にあると言えるのではないか。

観覧日:2019年3月23日

 

 

 


 

竹田真理(たけだまり)

関西を拠点にするダンス批評家。毎日新聞、ダンスワーク、シアターアーツ、ダンサート等紙誌のほかウェブ上に寄稿。

 

 

 

 

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  • 〈DANCE BOX アソシエイトアーティスト〉
  • 中間アヤカ&コレオグラフィ「フリーウェイ・ダンス」
  • 日時:2019年3月23日(土)17:00〜21:00(ごはんの時間 18:30〜19:30)
              24日(日)11:30〜15:30(ごはんの時間 13:00〜14:00)
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  • ダンス:中間アヤカ
    ドラマトゥルク:藤澤智徳

    記憶(振付)の提供:
    阿児つばさ、加納千尋、中間公明、藤澤智徳、増田匡 他

    セノグラフィ:阿雲モナイ、田添幹雄
    フード:ミャンマーカレーTeTe

WEBイベントページ:https://archives.db-dancebox.org/program/2854/

 

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