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Monochrome Circus『TRIPTYQUE/三部作』|『きざはし』踊りどころ(野村香子・合田有紀・佐伯有香) | BLOG | NPO DANCE BOX

2018.11.27

Monochrome Circus『TRIPTYQUE/三部作』|『きざはし』踊りどころ(野村香子・合田有紀・佐伯有香)

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今回上演する三部作のうちの『きざはし』は、2006年に製作されてからカンパニーメンバーに振付を下ろし踊られてきました。今回この『きざはし』に出演するのはダンスボックス・アソシエイトアーティストである〈中間アヤカ〉と〈山本和馬〉。カンパニーメンバー「以外」のダンサーが初めて踊るということになります。

そこで『きざはし』を踊ってきた、踊ったからこそ分かる〈見所〉ならぬ〈踊りどころ〉を、過去出演者である〈野村香子〉さん、〈合田有紀〉さん、そして〈佐伯有香〉さんにお聞きしました。



 

「きざはし」の<踊りどころ>

 『きざはし』を踊っている私の姿を見て、「シンクロナイズドスイミングのようでした」と感想を下さった方がいました。多分、溺れていたのだと思います。「台所で大ゲンカしている夫婦みたい」と言われた方もいました。確かに「こんな小さな机の上で踊れるかっ」、怒っていたと思います。

 私はこの作品に着手する前は、カンパニーの別の作品でガリゴリに体を鍛え上げていました。そのため、男女の繊細な機微が盛り込まれ、女性ダンサーには儚さを纏った強さが必要とされる『きざはし』で躍るには、逞しすぎる、とお手上げもいいところでした。森裕子さん(日本一小さいダンサーと公言)が乗って踊っていた同じ机に、ガリゴリの私が乗るなんておかしいと猛烈に抗議。ひとまわり大きな机を新調してもらい、その居心地はどうかというとさほど変わらず、、、、何かにつけ反抗期のようにこの作品と向き合わず、逃げるか抗う傾向にありました。

 ある時、鏡を見ようとしたら、机の上に立っているので自分の姿が鏡に映らない。ガリゴリの逞しい姿を見ずに済んだのです。それをきっかけに、理想のイメージに近づこうとするのをやめ、そこにある机や音、自分の肌なんかと踊ることを試みました。それは本番まで続き、音の反響や光のチリチリ、熱い冷たいなどと踊ることになります。それは、あきらめることからはじまった、赤ちゃんが色々なものと触れていくことのようなダンスになりました。そうです、全く作品の意図と掛け離れたものだったと思います。そもそも、作家のごくごく個人的な心象風景を描いた作品です。近づけるハズもなく「知らんがな」という面持ち。

 話を戻すと、この赤ちゃんダンスでとてもピュアな気持ちを手に入れたのは良かったのですが、赤ちゃんのまま成長できなかったのが残念でした。私にとってあまりに新世界だったので、まさに溺れてしまったのでしょう。達成感のない作品というのは、得てして心のひっかかりとして永く心に残ります。お客さんには申し訳ありません。あの時に感じた、あきらめて机に居続けること、どのようにあきらめていくかを見せていく感覚は、今の私にしっかり引き継がれています。私にとってはそういう類の作品でした。

 そして、相手と触れずして、又は見ずして交感するという手法は、長年コンタクトインプロヴィゼーションの体現者である阪本さんと森さんが数年に一度、新作として皆さまにお届けする真骨頂です。

みてみましょう。

佐伯有香

 


 

この作品の踊りどころはズバリ、机の下という極小の空間でいかに踊るか、でしょうか。というか、そもそも踊れるのか。動ける範囲は90cm四方の空間しかなく、当然立つことも出来ません。普段の舞台では、ダイナミックに動きたい、空間を動かし、自分に酔いしれ、素晴らしい踊りを披露したい、という欲望が沸いてきます。が、この作品は一切これをさせません。ある動きといえ ば、爪の垢を取るだとか、机の脚に頭をぶつけるだとか、天板に顔を擦りつけ るとかです。ダイナミックな動きが無いにも関わらず、痙攣や反復する動き、歪んだ体勢での静止など、身体的にかなりハードな内容です。その上、上の住人(女性ダンサー)の動きが基本「きざはし」な状態で展開されておりますから、少しでも机が浮いたり、ずれたりすると後からものすごく文句を言われてしまいます。その上、鋭いナイフが突然降ってくるのですから、それはもう恐ろしい。このような状況下に加え、お互いが見えない状態でそれぞれきっかけを与える箇所がいくつかあり、振付を忠実に行いながら様々な事に気を遣っておりますと、自然と陰の状態がやってきます。坂本公成の振付の特徴は、ダンサーの身体が自然と「ある状態」になっている、それを導き出す構図になっています。そのためだけに全てを使っていると言っても良いかもしれません。男性パートは見た目以上にキツイですが、最後、上の住人は、危うく儚い美しい女性の存在を示してくれるのですから、黙って支え続けましょう。公成さんも一緒に支えてくれます。

頑張って下さい!

合田有紀

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合田有紀 Yuki Goda

  • ’07年~17’年Monochrome Circusに所属。国内外問わず多くの作品に参加。15’年「ゴーダ企画」立ち上げ。18’年~TheNOBEBOダンサー。パフォーミングアートにまつわる様々なワークショッ プ、イベント、公演等企画し、「踊り」と「場作り」を並行して行っている。

 


 

 この作品を踊っていて面白いのは、稽古場で踊るのと劇場で踊るのとでは全く違うことだ。稽古場ではバランスが安定しているのに、照明が入ると一歩踏み出すのですら怖い。重心の位置がよく分からなくなるのだ。ブラックボックスだと闇と光が強烈でまっすぐ立つことができない。ナイフも本番の時に限って嫌なところ(例えばバランスする軸足の下とか)にいたりする。

「テーブルから落ちたら終わり」というプレッシャーもあり、作品の前半は呼吸が浅くなって冷たい汗もかく。照明やナイフによる予期せぬ揺らぎに耐えるために、掴まり立ちしたくなる。が、そんなことはもちろんできないので、頼るのはテーブルの下にいる男性ダンサーのかすかな呼吸や天板を掠る音、観客の咳払いやわずかな動作や表情、劇場の壁のシミや照明のバトンなど、聞こえるものを聴き、見えるものをしっかり見ながらそれと踊る。それらと踊ることで孤独感も紛らわすのだ。後半では前半と見えてくる景色が全く違って、山の頂上に達したような爽快感がある。公成さんの振付にはいつも「入口」と「出口」があって、この振付はそれが強烈に味わえるし、最大の踊りどころはそれだと思う。

野村香子

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  • 野村香子 Kyoko Nomura

    ’07年〜17’年Monochrome Circusに所属。以降カンパニーの主要ダンサーとして国内外問わず多くの舞台に立ち経験を積む。15’年より「ゴーダ企画」の企画/運営を行いアーティストの発掘・発信・出会いの場作りを「踊る」「創る」と並行して活動中。今年11月よりQuartier am Hafen(ドイツ/ケルン)にて滞在制作を行っている。


 

京都を拠点に「身体との対話」をテーマに活動を続けてきたカンパニーMonochrome Circus(主宰:坂本公成)。1990年に結成以降、国内外で活動を展開し、数多くの作品やダンサーを輩出してきた。今回の公演では[坂本公成+森裕子]という単位に戻り、この20年あまりの間に上演した、時代も背景も異なる3つのデュエットを通じて、身体への眼差しの変化を俯瞰すると同時に、新鋭のダンサー[中間アヤカと山本和馬]に振付の委嘱を行い、カンパニーの言語を次代に継承していくことも試みる。

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  • 日時:2018年12月8日(土)14時/19時
  •        12月9日(日)15時
  • 料金:前売一般 ¥2,700
               丼会員・長田区民・学生・障がい者・65歳以上の方 ¥2,200
       小・中学生 ¥500 
        ※当日券は500円UP
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