NEWCOMER / SHOWCASE#3 黒田育世作品「ペンダントイヴ」
クリエーション6日目となる、10月10日の夜、クリエーション終わりにお話を伺いました。
―今回上演の「ペンダント・イヴ」の初演が2007年、一番最近の上演でも森下スタジオで2年前の2014年ということですが、これまでBATIK以外のダンサーが踊ったことはありましたか?
黒田:「ペンダント・イヴ」に関しては、BATIK以外のダンサーが踊るのは初めてです。
藤本:すごいプレッシャーですね。
―これまでも、いろんなところで黒田育世さんのレパートリーワークショップをされて来たという事ですが、BATIKメンバーでの上演と、別のダンサー(今回は、BATIKダンサー、国内ダンス留学5期生+一般オーディションメンバー)で上演するという時の違いはどういうところでしょうか?
黒田:一番違うのは、BATIKで上演の場合は、「様式化」するということです。今回のようなプロジェクトでは短期間で行い、更に、バックグラウンドも違う方達と一緒に上演する場合とは違ってきます。ダンス留学は8月から始まったんですよね?留学生同士お互いに太い繋がりはあっても、身体の共通性というものがまだ芽生えていないですよね。そういう現場では、「様式」というものに落とし込めないし、落とし込みたくないと思っています。「あるがままの美しさ」です。ダンサー達にもお話ししているのですが、ヒステリックになりたくないというのがすごく難しいんです。本当にちょっとしたことがヒステリックになってしまう、そもそも「ペンダント・イヴ」がヒステリックな要素の多い作品なので、それをBATIKの時は「ボン!」とボルテージを上げてもそうならないように「様式化」させています。けれども今回のような場合、BATIKと留学生の混合チームという事で考えると、留学生たちにボルテージを上げたBATIKダンサーを「様式」として受け止める構造がないので、BATIKダンサーがもう一度立ち返って「あるがまま」にならないとダメということです。
―大きな違いですね。難しい。
黒田:だから「違い」というには、混合チームなので若干難しいのですが、正直、「あるがまま」ほど強いものはないんですよ。けれども、それは長くは続かないです、冷凍保存出来るわけではないので。それを見越してカンパニーでやる時は余白を含んで「様式化」する。今回のような短期間で突っ走る時は、「あるがまま」というのが持続出来るであろうと思っています。うちのダンサーは、その構造部分、骨の部分を惜しみなく留学生の皆さんにお伝えしながら、自分は「あるがまま」の方に向かって行かざるを得ない。聞く身体。「こういう風にしたら、こうなる」というこれまでの方程式で踊ろうというのは「NG」ということになります。それぞれがその場で起っている事を聞いて、それに対してどういう言葉で返答するかということは、これまでの予測では出来ない事です。予測でなく、きちんとその場その場で話を聞く、ということを、ダンス留学のみなさんはせざるを得ないじゃないですか。
藤本:そうですね。僕たちは、BATIKの皆さんが持っている共通認識を持っていないので、BATIKのみなさんも「なんで?」って思われてるだろうなと。
黒田:「なんで?」ではなく、むしろ彼女達が「できなかった」って思うんでしょうね。でも、彼女たちはプロなのでそこは克服してもらえると思います。あとは、カンパニーで作品上演する時とこのような機会での上演とは、臨むところが違いますね。作品を「成立させて欲しい」という事よりは、この作品を通してダンサー達の中で自身の能力を「見つけて欲しい」ということを主眼としています。BATIKとして踊る場合は、作品の成就ですね。同じ作品の上演と言っても、目的が違ってきます。
-BATIKを設立されたのが2002年ということですが、育世さんがこれまでカンパニーを維持されて来て、良かった事、困難だった事を教えていただけますか?
黒田:困難ですね〜(笑)すごく大変です。ただ、「文化」が立ち上がりますよね。カンパニーでしか立ち上げられない「文化」というのがあります。寄せ集めのプロジェクトでは出せない、「風土」とも言えるのでしょうか。カンパニーを続けてきて強く思うことは、カンパニーを維持していないと作品が維持出来ないんです。なので今回のようなことも、私一人じゃ出来ないです。作品を踊った事のあるカンパニーダンサーの作品を大切だと思ってくれる情熱がないと、このような事は成立しないです。最近よく耳にするアーカイブとは違うかもしれませんが、作品を持ち続けていくという事にカンパニーの維持というのはとても重要だと思っています。新しく集まったダンサー達だけで映像を見て振りを起こして行くということでは出来ない。やっていて、実感ありませんか?映像だけで起こすというのは難しい作品じゃないですか?
藤本、越智:そうですね。
黒田:何を大切にしているのか、という事が映像では拾えないですよね。たとえ振付家が生きていて、再演しようとしても、カンパニーダンサーがいないとやはり漠然としてしまいますよね。
-カンパニーの持つ「文化」「風土」というのがここで重要になって来るということですね。この「文化」「風土」という言葉を、分かりやすく言うとどのようなことでしょうか?
黒田:「共通言語」ですね。BATIKは再演が多いからかもしれないですが、「作品を大切に思う気持ち」というのが大前提です。新作をつくる段階でも、再演でも、BATIKで活動しているという事が特別な事だと思うことかもしれない。
―それは、地元の「お祭り」に対する感覚と似ているんでしょうか?
黒田:そういう感じかもしれないですね。それに付け加えて、彼女達の身の上に起こった事を当然のようにシェアして行く事になるというか。例えば、結婚、妊娠、出産、身内の不幸など、そう言う事がもろに作品に反映されざるを得ません。ドキュメンタリー作品をつくっているわけでなくても、彼女達の境遇を自分達の踊りとしてどうやって浄化出来るか、または、祝えるかという要素が出てきます。つまり、「立ち入る」ということですよね。「ペンダント・イヴ」もそうなのですが、お互いに立ち入って行く要素が強いので、それでしか生まれない空気感みたいなものはあると思います。それが閉塞感ではなく外に溢れ出すものになるように心がけています、「村」で終わってしまわないように、門戸がきちんと開かれているように気をつけています。土足でなく深く立ち入る事がカンパニーの特色かもしれないです。
―困難な事は?
黒田:困難は、挙げればきりがないですね〜。(笑)でも、大きく2つあります。一つ目は、経済的な事です。稽古場がないこと。メンバーがアルバイトしなければいけないということですね。これは日本の現状では常につきまとってくる困難ですよね。もう一つは、BATIKが女性ばかりのカンパニーなので、結婚や出産で踊れない時間がでてくる。または、踊れなくなって行く。それは本当にどうしようもないですね。カムバックしたいと思っている人もいるのですがとても難しいです。
―現在のメンバーでお子様がいるダンサーっていらっしゃいますか?
黒田:子どもがいて稼働出来ているのは私だけです。日本の現状ではなかなか難しいですね。「またね〜」というのが10年後くらいになりますよね。
藤本:僕たちには誰もが知っているカンパニーというイメージでしかなかったのですが。
黒田:いやいや、大変です。
お二人は将来、カンパニーとかつくりたいですか?
藤本:今は様々な人や場所で踊って、とにかく何でも吸収したくて。その中で、コンペティションに作品を出してみたり、公演をしたりして、自分を知っていきたいです。その後になると思います。カンパニーを起ち上げたいのか、ダンスを本当に続けるのか。まずは、一人で活動したい気持ちが強いです。
越智:私も同じようなことを考えていて、今は、自分に何もないので、いろんな人のテクニックというかたくさんの要素を取り入れたい時期だと思っています。
―ところで、「ペンダント・イヴ」はとても高度で難しい作品だと思っていますが、二人は現段階でどう感じていますか?
藤本:振付をどのように解釈し動機付けをして、それをどう伝えるのかということに挑戦している感じがします。「今どういう気持ちであなたはそこにいるの?」ということが問われているというか。映像を見て振りを覚えても、ただがむしゃらに踊っているようにしか見えなくなる。今日2回目の通しをして、ようやく「なぜ自分がここで力が入るんだろう?」という問いやそれを理解しようとする感覚が出てきました。それにしてもすごく難しいです。
越智:私は愛知での「ラストパイ」に出演した時に、育世さんのおっしゃっていた「欲のない踊り」というのが掴めなくて、もう一度育世さんに会いたいと思って、今回ダンス留学に応募しました。
黒田:え!そうなの?
越智:はい。「欲のない踊り」って難しい。
そう言うのを自分のなかで掴みたいと思いました。
―二人から育世さんへ質問はありますか?
藤本:今回「ペンダント・イヴ」で、個々のキャスティングではなくて、グループの組み合わせというのはどういう基準で決めたんですか?
黒田:これは、直感としか言いようがないですね。一瞬で決まりましたね。振付家として私に唯一力があるとしたら、「キャスティング」なんです。 キャスティングだけは自信あります。失敗した事ありません。これしかない!って感じですね。公演の企画意図を考えて決めるという事はありますが、それ以外は、「見えた!」と言う感じですね。(笑)
越智:育世さんは、いつも人のどこを見ていらっしゃるんですか?「通し」が終わって育世さんが「ここが素晴らしかった、良かった」と言っていることは、確かに本当にすごいなと思ったりするので。どうやって見ていらっしゃるのかなと思っていて。
黒田:分からないです。よく聞かれる質問なんですが、例えば最寄り駅から自宅までの道のりですら私は何も見てないんです。覚えてないんです。道にもよく迷います。でも、もちろん「通し」はすごく集中して見てますよ。
―目で人を殺せるくらいの勢いで、見ていらっしゃいますよね。(笑)
黒田:え?どんなですか?
越智:こんな感じです。
(黒田さんの通しを見ている時の表情の真似)
黒田:あぁ~、そんなですか。(笑)
藤本:見方というか、捉え方が違うんですか?
黒田:漠然として見てるのかな。非常に意識的に見ていますが、自分ではどこを見ているのか、本当によく分からないです。
藤本:例えば、育世さんが見ているところに別の要素が横から入って来たらどうなると思いますか?
黒田:混乱しますね。
-「ペンダント・イヴ」では、多くのシーンで舞台の前と奥とで、関係性は強くても違う事が起こっていますよね。その場合は、どこを優先的に選んで見ていますか?
黒田:・・・なるほど・・・分かりました!「何を見ているか」というよりも、「どこに納得するか」と言う事だと思います。ダンサーの何かに納得した時に、「良かった」「嬉しい」「ありがたい」って言っているのだと思います。その人の何かを見出そうと言うよりかは、何かに納得するということですね。納得さえ出来れば、多少景色が微妙になったとしても大丈夫。動きがうまく出来なかったとしても、その人の中に私が納得出来るものが見出せればオッケーなんですね。
藤本:ああ、なるほど。BATIKのダンサーの方って、同じ振りをしていてもニュアンスが全然違っていたりしますよね。例えば、(大江)麻美子さんやちぃ(伊佐千明)さんって違いますよね、でも、育世さんがそこに「GO!」を出している理由が分かりました。
黒田:キャスティングもそうなんですよね。納得ですね。その人の中に、それぞれのパートを当てはめて納得してるんでしょうね。
藤:すごい、面白い!
―本番まであと一週間ですが、最後までどうぞよろしくお願いします。
以上、クリエーション最中の対談でした。
#3黒田育世振付作品「ペンダントイヴ」の上演は10月18日(火)16:30開演、そして、19:00開演の2公演です。同じ作品を異なるキャストで、2公演実施します。
電話:078-646-7044 メール:info@archives.db-dancebox.org
(編集:田中幸恵 写真:新家綾)