NEWCOMER / SHOWCASE#5 井手茂太振付作品
【NEWCOMER/SHOWCASE】5人目の振付家は、井手茂太氏。現在DANCE BOXでは、dB20周年企画「The Party」での5期生のお披露目としての新作を創作中です。5日目の稽古後に、井手茂太氏、5期生の井原未来と豊川弘恵、「国内ダンス留学@神戸」3期を修了した今回演出助手の新家綾を交えてお話聞きました。
− 昨年7月にここで上演した留学NEXT「花道ジャンクション」から1年4ヶ月、この度は井手さんにdB20周年パーティーで5期生お披露目のための作品を振付けていただいています。今日はどうぞよろしくお願いします。因みに、井原未来は今年20歳でdBと同い年なんですよ。
井手:そうなんですか。イデビアン・クルーは今年25周年なんですよ。1991年にイデビアン・クルーを結成して、その時は学生の延長で、ミニパフォーマンスやイベントとかでちょこちょこ活動していました。1995年から公共の場で本格的に作品を発表し続けています。今年3月に世田谷パブリックシアターで25周年記念としての公演を行いました。
-結成当時、井手さんはまだ十代でしたか?
井手:学生時代なので19歳か20歳ですね。(iPhoneを見ながら)えーっと、歴史は遡って、95年にセッションハウス、99年にびわ湖ホールに来てますね。2000年にお葬式をイメージしてつくった作品は、伊丹のアイホールでもやりました。この時が「お葬式」だったので、イデビアン・クルーの新作「ハウリング」は、じゃあ結婚式しようって思ってつくりましたね。25年も続けていくと色々変化もありますが、振り返ってみるとある意味、変わらないまま来ているんだなと思いました。
-井手さんの興味がですか?
井手:興味もそうなんですが、方向性や動きに関してもですね。そこでdBの20周年や(井原)未来が生まれた年って考えた時に、なんか時代はすごく年取ったって感じですが、逆に続けていないとこのように出会えないわけじゃないですか。
-dB20周年のお祝いの場で5期生のお披露目ということを考えた時に、井手さんの作風にはこの度のお祝いの場とも相性がいい感じがします。井手さんは「冠婚葬祭」に特別な魅力を感じていたりするんでしょうか?
井手:いや、そういうわけではないですが、単純に実家が美容室で貸衣装もやっていたので、留袖とかがいっぱいあって「一回は使ってみたいな」ということを思っていたくらいです。題材が身近なものや日常的なものを使って作品をつくるというのがイデビアンの特徴でもあるので、普段ありがちなことを題材にすることが多いです。
今回はパーティーでの5期生のお披露目ということなので、作品作品したものに行きすぎず、でも少し作品っぽいニュアンスもありつつ、今の5期生の活動している現状を「素の状態」で見せたいと考えています。ただ歩いているだけでも絵になる、踊りになっているというのを見せたいなと思っています。もしかしたら皆さんまだお若いからもっと踊りたいというのはあると思いますが、今回のような舞台の条件だと、お客さんも近いのであんまり動きすぎるとお腹いっぱいになりますよね。(笑)ちょうどいい塩梅が今くらいの感じかなと思っています。もっとやりたいというみんなの気持ちもすごく分かるのですが、特にパーティー形式のショーケースでは、あまり我が強すぎるパフォーマンスにしない方がいいのかなと思っています。僕の考えすぎかもしれないですけど。
- 昨年の「花道ジャンクション」に続き井手さんの演出助手をしている(新家)綾ちゃんにとって、今回の5期生のクリエーションはどんな風に見えますか?
新家:全然違いますね。前回は出演者の半分以上が一般の方たちだったし、井手さんも探りながらされているのがより見えたというか、今回の5期生たちは体が良く利くのでとてもスムーズだなと思います。
井手:前回は一般の方ということもあり、踊り方を教えるとかそういうことではなく、単純にその人たちの特徴性なりいいところを引き出すということも振付家の仕事の一つなので、そういう部分での試行錯誤はしていました。今回は、for dancersなので踊れて当たり前ですが、それを自分の芸風というか雰囲気に染めるよりは、その人が行き過ぎないように止めてあげるということをやっています。すごく踊れる人でも敢えて単純な動きだけにする。それだけでも十分に伝わるだろうと思っています。
新家:私はこの【NEWCOMER/SHOWCASE】の#2から制作アシスタントとして携わっているのですが、5期生の個々のキャラクターや特徴、踊り方が最近分かってきました。今の稽古を見ていると、歩いているだけの表情も振付けられている感じがするのでダンサー達の特徴が十分出ているなと思っています。
井手:自分自身もこういうキャラクターで踊っていますが、個性的なダンサーってあまりいないと思うんですよね。役者さんなら個性派俳優みたいな人はたくさんいますが、ダンサーでもそういう個性的な人がもっと増えればいいなと思っています。今回のメンバーは踊れて当たり前なので、課題はそこからさらに何か滲み出すというところだと思います。
―「花道ジャンクション」の時も感じていたのですが、井手さんの振付は、ダンサーの個性まで行かずとも、その人の家の匂いくらいのレベルで特徴というか匂いをすっと引き出されているという印象があります、しかもとても早い段階で。井手さんご自身もイデビアン・クルーで踊られていますが、誰からも振付けられずダンサーとして自らそのような匂いを放つということ、ご自身で振付し踊られる時はどんな意識をもってやっていますか?
井手:自分で踊っている時は、何も考えてないですね。(笑)
一同:爆笑
-井手さんが踊る時、他のダンサー達に混じって行くことに温度差的なものは感じないですか?
井手:基本作品制作では、ビデオを撮って確認しながら進めていくのですが、そこで他のダンサーとの兼ね合いを見て、自分とは違う別のキャラクターというのを演目に合わせてつくります。なので、自分の素の状態は敢えて出しません。他のダンサーの場合もそれは同じで、例えば、ちょっと個性的なインテリ系だったら、「つい小指を立ててしまう踊りにしてください」といった感じで振付けます。お芝居的と言われればそうかもしれませんが、演目に合わせてそれぞれの<動き>というより、先に個々の<キャラクター>を決めてからつくることが多いです。
-5期生の昨日の通し映像を見たのですが、ちょっとダンスシアターというか全体を通してのストーリーではなく、例えば、ただすれ違うだけのシーンでも、それぞれのダンサー同士の間にちょっとした物語が垣間見えるなと感じました。
井手:今回はお披露目ということで色々と調べていたのですが、お披露目と言っても結婚式のお披露目とは違いますよね。この度は、5期生のみなさんの普段の状態から、つまり、これまでいろんな振付家の方が来られていて、この先も別の振付家の作品に出演するということで、それぞれの振付家への対応の仕方を想像しました。「この人なら、あの振付家の前ではこういう対応してたんじゃないかな」とか、「こんな仕草をしそうだな」とイメージしてみたり。あと、「集中している時とは違って、家に帰るとこんな趣味があるのかな」とか、その人その人の日常を僕の勝手なイメージでつくったりします。例えば、(豊川を指して)「意外と古風な人が踊ってたら面白いな」と想像します。
-クリエーションがすごいスピードで進んでいるようですが、井原さんと豊川さんはいかがですか?
井原:速いです、すごく。
井手:でも、みんな振り覚えも早いし、難しい振りもないから大丈夫ですよね?ただ、少し間をとったりするということが難しいのかもしれないですね。踊れる人はついついリズムや感情が走りたくなるので、動きに慣れてくると自分のコントロールが大変かもしれませんね。
井原:そうですね、難しいです、意外と。みんなどんどん速くなってしまって、舞台裏でスタンバイしている時に他のダンサーを見て「みんな、速い速い!」って思うんですが、自分が実際出ていくと自分も抑えられないんですよ。
豊川:そうですね、私も焦ってしまいます。
-お二人は、井手さんの振付の時に自分の個性というか匂い的なものを掻き出されている感覚はありますか?
井原:私、今回何も考えていないんですよ。普段はあーだこーだと考えすぎてしまう傾向にあるんです。悔しくて泣いたりもしますし。(笑)今回、楽しくやっています!
新家:表情が違うよね。悩んでいない顔。(笑)
豊川:独特な振りをいただくと、自分はこんなイメージなのかな?と思ってやっています。
井手:可能性はたくさんあるので、他にももっと色々と試したいというのはありますね。
豊川:井手さんに質問なんですが、あの限られたスペースで11人全員を動かすのは大変だと思います。どのような空間の埋め方やバリエーションとかを考えてつくっていらっしゃいますか?
井手:狭いエリアを効果的に見せるには、どうすればいいだろう?と思ってつくりはじめました。そこで踊るとギシギシになって行くアクティングエリアを見ていた時、隙間に注目しました。「そんな隙間でも踊ってしまうのか!」というくらいの隙間のサクセスストーリーみたいなものが見えれば面白いのかなって。後半になるにつれて「その隙間をどうするか!」みたいな感じになって行けば面白いかなと思っています。
-では最後に、ダンサーの5期生達、演出助手の新家綾に向けて、何かお言葉いただけますでしょうか?
井手:いや、そんな神みたいなこと言えないですよ。でも、なんでしょうね。この先何があっても、たとえ踊りを辞めたとしても、今踊っていたことに誇りを持っていて欲しいです。例えば、新家は今回演出助手をやってくれていますが、外側から舞台を支えていく人間がこうやって生まれてくることはとても素敵なことだと思います。ダンスとは全く離れた仕事に就いたとしても、今踊っているということがあるからこそ、その後も舞台を観に行く、他の人を誘って劇場へ足を運ぶということがもっと日常になればいいなと思っています。昨日15年前に伊丹でやったワークショップの参加者達と集まったのですが、「あのワークショップがきっかけで今でも舞台をよく観に行っています」と聞いた時、とても嬉しかったですね。若い5期生達に「このまま頑張ってください!」っていうのも、正直今の時代そんなに甘くないですし、それで食べていける人はとても少ないです。けれども、彼らにはこの先も舞台における精神的なものをキープしてもらいたいと思っています。
− ありがとうございます。では、11月19日の本番まで引き続きよろしくお願いします。今日は皆さん稽古でお疲れのところ、ありがとうございました。
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(編集:田中幸恵 写真 :岩本順平)