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日韓協働制作「Darkness Poomba-新長田.ver」[座談会]キムジェドク×イチョンイン×横堀ふみ×文 | BLOG | NPO DANCE BOX

2017.2.3

日韓協働制作「Darkness Poomba-新長田.ver」[座談会]キムジェドク×イチョンイン×横堀ふみ×文

INTERVIEW

DANCE BOX Resident Program 2016として今回は韓国から振付家のキムジェドク氏を招聘しました。アーティストインレジデンスとして、2017年1月〜2月にかけて約1ヶ月間を新長田に滞在し、国内ダンス留学@神戸5期生をダンサーとして、2月4日、5日に成果上演を行います。現在、そのクリエーションの最中ですが、今回はキムジェドク氏が主宰するカンパニー<Modern Table>のメンバー、イ・チョンインさんとキムジェドクさんから作品のこと、ダンスのことについて伺いました。ぜひご覧ください。

横堀:前回は<音楽>を中心にお伺いしました。今回は<ダンス>の面を中心に聞いていきたいと思います。まずはチョンインさんに、お伺いします。1月17日の火曜日、はじめて稽古場に来られた時に刺すようなするどい眼差しで稽古風景をみておられていましたが、その時の第一印象をお聞かせ頂けますか。

チョンイン:するどい視線でしたか?(笑)

横堀:はい。

 

チョンイン:感じられたするどい視線とは少し違う目線だったかもしれませんが、朝の10時から6時まで取り組んでいるだけでも大変なことなのに、誰も何一つ文句も言わず情熱的に稽古をしている姿勢に、すこし驚いていました。技術的な部分でプロフェッショナルを補えない所はあったにせよ、その気迫をみて、何があってもこの作品をやるぞっていう気迫を感じました。

横堀:ダメ出しメモが沢山あるのかなって思っていました。リハーサルの際、チョンインさんにとってダンサーの動きを見る時のポイントはどこにありますか。

チョンイン:今は覚えたばかりで、まだ練習数が少ないという状況なので、例えば腕がどのように動いて、どのような角度になっているか、のような点を今は重要視しています。

横堀:では、話題を変えまして、ジェドクさんとはいつからご一緒に仕事をされているのでしょうか。

チョンイン:2009年からです。

文:今年で8年目?

キム・ジェドク:8年ですね。

横堀:ほかの振付家の方とも一緒にお仕事されていますか?

チョンイン:3年前からは、他の振付家とは一緒に仕事していません。

横堀:それはどういった理由で?

チョンイン:2013年の末から2014年に、正式に「Modern Table※1」が団体として成立しました。それまではプロジェクト・ベースで動いてきたことが多かったのです。

横堀:ではカンパニーのメンバーは他での仕事はあんまりしないのですね?

チョンイン:はい。

横堀:チョンインさんからみて、他の振付家と過去にご一緒されていた経験も含めて、ジェドクさんの振付やダンスの特徴はどのように考えておられますか?

チョンイン:まずは音楽の存在は絶対ですね。いろんな振付家と仕事をする中で、振付家が作曲する方も中にはおられました。しかし、ジェドクさんは“音楽”と“動き”の一体感というのでしょうか、それらが一致している点において優れているなって思います。そして、全体においてセンスがある。またその単なるセンスだけではなくって格好をつける、粋なところというか、見せるところは見せる。そういうものとのバランスがよくって、私はそこが気にいっています。すごく好きです。はい。

横堀:どうですかジェドクさん、チョンインさんがそのようにおっしゃっていますが。

キム:とてもいいですね。一緒に仕事をしている同僚がこのように良く言ってくれているのはすごく嬉しいです。振付家とダンサーとあまりいい関係じゃない場合もあったりしますしね。私自身が持っている感覚を、チョンインさんは実によく取ってくれます。自分のもっているコードと同じコードを彼も持っていて、自分が思った通りに動いてくれるのでとても助かっています。なので、複雑な動きは、自分では踊らずチョンインさんに渡します。(笑)

横堀:リハーサルを見ていても、お二人の信頼関係はとてもよく見えてきます。

キム:言葉にしなくても分かってくれますね。

横堀:その言葉にしなくても分かる境地へは、チョンインさんは感覚でわかるって感じなのか、これまでの経験の中でジェドクさんの感覚を掴まれたのか…どうですか。

チョンイン:両方って言えますね。もちろん対話もたくさんしていますが、対話がない時でも、彼がどうしようとしているのかっていう観察をしています。常に観察する意識があるからじゃないでしょうか。

横堀:ジェドクさんの振付はとても複雑で、色んな要素が振付の中にあるのが特徴だと思います。どのような経緯でこのような振付のされ方をするようになったのか聞いてみたいので、ジェドクさんのダンスの経歴をお伺いしてもよいでしょうか。

キム:小学校の時や幼い頃って歌謡曲が流れていたら、それを見て踊ることはよくありますよね。そういう時代が私にもありました。中学の時も同じように音楽を聞いて踊っていて、ロックンロールをする仲間とも出会って、そういう音に合わせて踊っていました。高校では、それなりの進学校に入学したのですが、芸術高校に転校しました。その時にたまたま空いていたクラスが舞踊科だったのです。

文:その高校では、どのような舞踊をされましたか?

キム:韓国では、舞踊科と言えば、バレエ、現代舞踊、韓国伝統舞踊です。この3つに分かれます。はじめはバレエの専科に入りました。でも、頑張らなかったので、韓国伝統舞踊のほうに2年生の時に移されました。

キム:3年生の時に大学入試の為にもう一度バレエに行かせて欲しいとお願いしたのですが、現代舞踊のほうがあっているんじゃないか言われて現代舞踊の方にいきました。

横堀:大学もそのまま続けたのでしょうか?

キム:現代舞踊を専攻に大学に入学しました。

文:大学を卒業されてからプロフェッショナルな活動を始められたのでしょうか。

キム:大学を卒業して社会にでるキッカケでこの道に進みました。卒業して「Darkness Poomba」は2作品目になります。

横堀:では、チョンインさんの経歴を教えて下さい。

チョンイン:ジェドクさんと似ているのですが、元々はボクシングをしていました。ボクシングをしながら友達と遊んだり、同じく歌謡を聞いて踊ったりしながら、B-boyもしていました。高校へ進学する時に、進学校に行きたいって元から思わなかったですね。先輩後輩の関係が激しかったり、いじめがあったりするので、あまり競争率の高くない所を探す中で、芸術高校に入ることにしました。舞踊科に入ったのですが、それがジェドクさんと同じ高校だったんです。

横堀:お!

チョンイン:1学年下のクラスでした。

横堀:高校時代からのお付き合いだったのですね。

キム:学校で分かったのですが、さらに近所の仲間だったんです。

文:ええ!!

キム:お互いによく知っていました。お兄さんも知っていたり。

横堀:おもしろい。大学も同じところですか?

チョンイン:いいえ、バレエに力をいれた大学で、バレエを専攻して卒業しました。25、26歳ぐらいから現代舞踊をしました。

横堀:大学を卒業してからっていうことですね。

チョンイン:はい、卒業してからです。

文:これまで私たちも韓国のコンテンポラリーダンスの振付作品を多く招聘してきたのですが、これまでの流れとはまた異なった身体の扱い方を感じます。また、日本のコンテンポラリーダンスに多い身体の扱い方でもないようにも思います。ジェドクさんの振付の原点や、振り付け方、身体のあり方がどこから来ているのか興味があります。

 

キム:卒業後に自身で活動していった時は、自分のしたいことって何だろうっていう感覚でつくりはじめました。だけど、シンガポールで1年間、レジデンスへ行った時に、何か意味を残さないといけないな、自分だからこそできることってなんだろうって思ったときに、韓国人であるっていうことを意識させられる環境のなか、韓国舞踊の中から自分の好きな動きをチョイスしたりして、意識が変わり始めました。

韓国の人たちと舞台をつくる時は、韓国的なものというより東洋的なものを模索していると伝えています。よく北東アジアと言っています。

あるジャンルのラップを聞き続けていくと、一つの画がみえてきます。その画から浮かんでくるものが必ずその存在する、つまり背景が存在するっていうことですね。そのようなことを感じていたときに、自分の、キム・ジェドクの存在感っていうものを、なんらかの形で残していきたいなと。それをメソッドとして自分の中でもつようになった。

横堀:最後のくだりをもう少しご説明ください。

キム:ある音楽のジャンルにどっぷりハマった時に、それらの曲をずっと聞いていると、なんとなく「あ、この節回し!」のように分かってくることがある。そのポイントを掘り起こしていった時に、そのジャンルの背景や、それに関わる人たちが見えてくるように感じます。なので、ただ本能的につくっていくのではなく、キム・ジェドクっていう存在感をどのように残していくのか考えています。

文:そのように作っていきたいなと思っても、それを自分の形として生み出していくことはとても難しいことだと思います。

キム:いろんなアーティストを観察してきた中で、なにか矛盾していたり、なにか複雑であったり、癖があるというものが知らず知らずのうちに、自分の中に刻まれていました。なので、自身の活動を始めた時には、すでに何か持っているものがあったのかも知れません。また、現在このように一緒に活動してくれる仲間がいることは本当にありがたいです。

文:自分のコードを取ってくれる仲間ということですね。

キム:はい。私自身も振付家としてベストを尽くしていますし、ダンサーたちも最大限の力でついて来てくれているっていうことも分かるからこそ、舞台を降りて仕事が終わったら、ダンサーに “よしよし”ってしています!

文:先ほどの話で、北東アジア、韓国的な要素をベースにしながら、バレエ等のいろんなものをミックスして独自のかたちを生みだされている振付を、今回、「国内ダンス留学@神戸」五期生のメンバーたちに、振り移して頂いています。例えば、韓国的な要素は、彼らには素養がない、そんな中で今の彼らをどのように見ておられるのでしょうか。

キム:韓国的な要素と言葉にしましたが、そういった要素の動きが入った振付は、自分の中で具現化していて、論理的に伝えています。皆にはある程度伝わっていることだと思っています。カンパニーメンバーと一緒に踊る時も、“このように”って伝えるだけで、“こうなの?ああなの?”っていうことがあった時に、例えば韓国伝統舞踊での「ヨンプンデ」という専門用語があるのですが、わざわざ“ヨンプンデをしてください”とは言いません。実際に動いて伝えていきます。

横堀:では、話題を変えまして、チョンインさんはジェドクさんのいろんな作品を踊られてきた中で、「Darkness Poomba」はどのような作品として捉えておられますか?

チョンイン:彼の全てです(笑)

文・横堀:おぉー!

チョンイン:ジェドクさんの哲学や思考が、今取り組んでいる「速度」という作品に含まれています。その作品での動きは、「Darkness Poomba」を超えるもの、超越されたものがあります。けれども、観客の感覚から見たときには「Darkness Poomba」を選びます。

キム:もちろんそうでしょうね。

横堀:では、ダンサーとしてこの作品を踊るときに、ここ頑張るとか、ここに注意するといったような、そのポイントはありますか?

チョンイン:「Darkness Poomba」では、個人的なことではあるのですが、任されているパートが本当に動きの多いパートで、この作品を踊り切ることは本当に死にそうなことなのです。死ぬ気で踊ることです。踊りきることは、つまり死を覚悟しているので、この部分がって言えないです。だけど、その中で最後のシーンというのは、やはり重要ではないでしょうか。

キム:「Darkness Poomba」の公演をした次の日は、必ず休みだと決まっています。あまりにもきついので。

横堀:では、お二方に最後の質問に入っていきたいと思います。ジェドクさんにとって、一緒に仕事をしたいダンサー、いいダンサーってどのように考えておられますか?

キム:そうですねぇ、考えて考えて…言うならば、自分がもっとも譲れないのは、礼儀がなくてどうしようもない人っていますよね?秩序のない人、そういった人達は絶対に受け入れないです。なので、カンパニーメンバーにはとても恵まれています。自分にはそれが非常に幸せなことです。やはり、そういった心を持ったダンサーというのが、一番いいダンスをするのではないでしょうか。これが自分の一番重要視するところです。その次に、身体能力や運動能力であったり、といったことが重要視されてきたりはしますが。

横堀:では、チョンインさん、何歳まで踊っていたいですか? ダンサーの宿命は、年老いていくなかで、資本である身体が衰えていくということが事実としてあると思います。徐々にスピードのある動きやコントロールができなくなっていく、しかし、年齢を重ねたからこそ出てくる味わいもあるだろうと思うのですが、そのあたりは…?

チョンイン:70歳です。70歳ですが、60代まででも、肉体的な…筋肉を使う踊りを踊っていたいなと思っています。まだ言っているだけのことかもしれませんが。だけど、私は今32歳なのですが、やっと全盛期の入り口に入ったところだと自分自身で思っています。37〜40歳くらいが一番脂ののった…自分のなかでの全盛期と考えています。今朝たまたまスタジオに行く時にジェドクさんとそういった話をしていました。「Darkness Poomba」を40歳になっても踊れるかなと。

キム:今までは「Darkness Poomba」を40歳になっても踊ろうねって、夢を語るように二人で話すことはよくあったのですが、今日の稽古で五期生が踊っているのを見て、40歳になってもこれ踊れるかな?と真剣に話すようになりました(笑)。40代の男が踊るとすごく格好いいですよね?

横堀:めちゃ格好いいと思います!

キム:それまで待ってください(笑)

横堀:楽しみに待っています。今日はどうもありがとうございました。

キム・チョンイン・文:ありがとうございました。

※1 Modern Table 振付家のキム・ジェドクが主宰するパフォーマンス・カンパニー。カンパニーはおもにコンテンポラリーダンスの上演を行うが、同時にミュージカルやパンソリ、ロック、ヒップホップ等の要素を取り入れ、様々なジャンルの境界を越える。

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