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国内ダンス留学@神戸 6期振付家インタビューVol.1山崎広太 | BLOG | NPO DANCE BOX

2017.5.17

国内ダンス留学@神戸 6期振付家インタビューVol.1山崎広太

INTERVIEW

国内ダンス留学@神戸6期 NEWCOMER/SHOWCASE の振付家5名と成果上演のメンターへのインタビュー全6回のシリーズ。第1回は、南フランスに1ヶ月滞在中だった山崎広太さんです。(トップ写真:Miana Jun)

田中:こんにちは、お久しぶりです。

山崎:こんにちは。今、僕はマルセイユから25kmある海辺のカシスという街に滞在しています。すごいオーシャンビューで素敵なところなんですよ。(窓の外の景色を映してくれて)ほら、こんな感じです。

 

ーまぁ、すごく素敵ですね。今はそこでどんな日々を過ごされているのですか?

山崎:今朝も4時に起きてクレイジーな言葉を書いて、6:30頃から釣りに行ってきました。毎日ランニングもしています。ここはレジデンシー施設で、文学、政治、映画、歴史、社会学、音楽、ビジュアルアートなどの人が研究、論文、作品制作するための場所です。この付近は国立公園でカランコという巨大な地層が連なっていて、日本でいうならば三陸のリアス式海岸かな?僕が滞在しているカマーゴ財団は海に面した高台にあるのですが、下のビーチで多くの人が日光浴していたり、野外にあるスタジオで踊っていると通りかかった観光船の乗客や、向かいの堤防にいる人たちに見られてしまい、ちょっと恥ずかしいです。

ーそれでは、今日はどうぞよろしくお願いします。「国内ダンス留学@神戸」は、去年に引き続き2年目になりますが、昨年、5期生と一緒にクリエーションをされてどうでしたでしょうか?

山崎:あまり創作期間がなかったこともあるのですが、ただでさえ、それぞれのパフォーマーのインデビジュアリティを重視して創るタイプのコレオグラファーなので、ムーブメントを全てセットして作品を仕上げることは最初から難しいだろうと思っていました。

まずこの作品のコンセプトは何かを見つけることが重要だと思い、そのために、外のパブリックスペースと劇場との関係、言葉を発することを伴いながらダンスが本来持っている自由、見る見られる関係、オノ・ヨーコさんの本「グレープフルーツ」を参考にしながら、この場所にないことを想像することと、ここにあるダンスとの関係性、カラオケとダンス、反復することの意味の検証、ダンスが持ち得るエナジーの放出について、など多くのストラクチャーやアイデアをパフォーマーと交換しながらリハーサルしていました。

それゆえ、即興ベースの作品となりました。もちろんセットされたムーブメントもかなりありました。それと作品をつくることも重要ですが、ダンスの可能性を伝えたいがゆえに、“教育としてのダンス”—何を伝えたいか、何を共有したいか、ということも考えながらやっていました。

 

ー昨年は、劇場の外に出て商店街や駅前でのクリエーションがありました。

山崎:人類の未来を考えると“如何にパブリックスペースを新しい形で共有できるか”ということが重要だと感じています。去年の新長田の駅前で、街とどのように融合するかということを考えながらクリエーションを行ったことで、何かパブリックスペースにおいて新たなプロジェクトが立ち上がりそうな確信を得ました。それはパフォーマンスという範囲を超えた広義の意味においてです。

ー昨年の作品「ダンスは日常生活ダ!シリーズ第一弾」のラストシーンは、とても幻想的でした。

山崎:新長田のおじちゃん、おばちゃんの話から始まって、あのように浮遊することの必然性は現出しました。僕は実はとってもロマンティックなんですよ!この前、バレエ作品を振付けた時も、そのムーブメントを同じようなシチュエーションで起用しました。

この二つの公演終了後、ある思いに至りました。僕にとって反復というのは、ランダムユニゾンに近いな〜と。例えば、潮騒をずっと見ていると、波のフォルムは毎回違っているのだけど、全体的な一つの大きな流れがある。それがまさしく自然の生き様です。浮遊し水のように流れる身体によって、何か大きな自然を再現できることもあるのではないかと。いつか実現できると嬉しいです。そういう事なども彼らと実験、共有、出来たことが良かったです。

去年の作品では、いろいろなストラクチャーが同時多発に入り混じっていたので、コンセプトとして、もっともっとはみ出しを徹底して“作品にならない作品”としてやればよかったと少し反省しています。今回は、それらを踏まえつつ、去年とは逆の方向性でセットされた動きで最初にトライしたいと思っています。

ー今年3月に東京で井上バレエ団の若いバレリーナに振付をされていましたが、ダンス留学生と何か違いはありましたか?

山崎:全然違いましたね。まず、トゥシューズを履いていたので、身体の捉え方が全然違いました。以前はまだその違いを想像できていませんでした。素足で踊ることとポワントで踊ることは基本的に違うということが分かりました。

バレエの振付に関してはダンサーも20代前半だったので若い、完全に少女の世界でした。観客はびっくりしたかもしれないです。最近は暗黒舞踏をフォーカスして作品を作っているのに、真逆、こんな少女の世界を僕が創るとは!自分でも驚いています。それは僕がロマンチストだからできるのかもしれないです(笑)。

ーそこで、今年は去年とは逆のことをされるとのことですが。

山崎:参加者の人数や時間にもよりますが、ダンサー達に20~30分のソロを与えて構成していこうと考えています。

ーそんなに具体的に決まっているんですか?

山崎:ムーヴメントも今考えていますよ。ほら、こうやってね。(「C-86」と書かれたホワイトボードを見せる)C-86までフレーズができてますよ。もちろん、他のプロジェクトのことも考えてやっていますが。これ、200まで行きたいなと思ってるんですよ。

ーいつもご自身で踊られた動画を撮って、振付されてるんですか?

山崎:そうですね、編集作業も好きなので、これとこれを組み合わせて・・・みたいに。ただ、僕はディテールを気にしだすと思考が停滞してしまう傾向があります。多分それは短い期間ゆえに作品が出来上がらないのではないかという不安と怖さがあって、どんどん進めていきたいという物理的なことからもきています。でも、事前に創った動きがあっても、パフォーマーの自発性を促してインデビジュリティを引き出すことも重要だし、振付とパフォーマーの関係はパフォーマーによっても変わってくるし、いろいろ微妙です。

でも、僕にとって、基本的に重要なのは、ダンサー同士の関係性と、身体と空間の関係性です。昨年は即興ベースということもあり、ディテールはそこまで気にしなかったです。今回ひとりひとりに動きを振付となると、時間を持て余すパフォーマーもきっとでてくるので、事前に僕の振付の構造や身体へのアプローチを理解していただいた上で、今回このカシスでのレジデンシーで大量にへんてこな言葉を書いているので、それをもとにムーブメントを作って頂くかもしれないです。

去年はそれぞれを作ったストラクチャーを交換し独自に解釈してムーブメント作りました。それは面白かった。クリエーション期間の流れとしては、ウォームアップ+トレーニングの時間、方向性を共有する時間、そしてクリエーションという感じになりますね。頑張ります。

ー6期生の中に振付家志望の人もいると思うのですが、ダンサーとしてではなく、振付家サイドから作品に関わる、つまり、山崎さんの振付方法やスタイルを違う角度から学びとるというポジションも設定する予定です。

山崎:そうなんですか。今は自分のスタイルが少しずつ確立しつつあります。去年は先ほども言いましたが、教育的なことも念頭においてやっていたので、強固な作品を作ることは、第一の目的にしていませんでしたが、今回は、もう少し自分のスタイルを持って挑みます。違った意味でこれは初めての経験なので楽しみです。「あ、これだったんですね!」という感じでいきます!

ーご自身でスタイルを確立してきていると思えるポイントはどこなんでしょうか?

山崎:今までフルイドテクニック(流れるムーブメント)が僕にとって興味があったのですが、それがだんだん薄れてきたと言うか、蒸気化する方向になっています。流れるムーブメントをフィジカルにやると結構モダンダンスっぽくなります。でもアジア人特有の薄っぺらな身体から流れる動きは美しいです。バレエ団の振付をやったことで、流れるムーブメントはバレエでも探求できると思いました。それだったら足裏のポイント移動から始まる蒸気化する身体もしっかりと探してみようと。

バレエは軸によって蒸気し身体が消える瞬間を垣間見る事ができますが、素足は身体の拡張によって蒸気し身体が消える瞬間を垣間見る事ができるのではないかと?因みにここ(カシスのレジデンシー)では、絶えず潮騒の音が聞こえてきますし、海風を感じているとフルイドの動きはもとより、蒸気化も自然と入ってきます。今興味が出て来たムーブメントは、イメージ的には原始時代って感じですかね。ネアンデルタール人みたいな猫背な感じです。どうしても土方さんの映画「風の風景」の身体の体型が脳裏に焼き付いているんです。

ー映像に撮った動きを切り貼りして編集しながら振付ていくということを、私は今まで聞いた事なかったのですが、それは新しい方法ではないのですか?

山崎:う〜ん、1998年ダニエル・ラリューと一緒に時を過ごした時に、同じような感じで、ウィリアム・フォーサイスに動きの映像を送って振付していたので、たぶん特別ではないような?

ーすでに作品のマテリアルとなる動きをつくっていただいていますが、ダンサーとしてどんな人に集まって欲しいですか?

山崎:誰でもいいです。ダンスすることの素晴らしさを伝えることを去年も目的としていましたが、今年はまた違った方法でその同じ目的を伝えることがしたいです。バレエの振付をした時は、振りを二人に与えて互いに確認しあえるよう、2人ユニゾンということをしていました。けれども今回は、一人ずつ別の動きを与える予定なので、“如何にそこに自分が立つか”ということを発見してもらえたらいいのではないかと思っています。

ーハードルが高いですね。覚悟がいりますね。

山崎:そうですかね?ところで、今年は色々たくさんワークショップもあるんですよね?

田中:そうなんです。今年はクリエーション&ショーケース期間の前に、一ヶ月間山崎さんも含めた11名の講師のワークショップを行います。その前に1週間のオリエンテーション合宿というのを予定していて、そこでは登山や地元の漁師の方の魚のさばき方レクチャー、また、長田拠点に活動されている方の韓国舞踊など、まず、実際に街に出て自分の身体の体験を通してこの地域を知るという期間を設けています。

山崎:それは素晴らしい、大事ですよね。こうやってレジデンシーに来ていても思いますが、場所って本当に重要ですよね。神戸は海も山もあっていいところですね、本当に。やっぱり水のある場所はいいですね、ここ(カシス)やニューヨークもそうですけど。

ー山崎さんのワークショップ説明文には、「ランニング・ダンスから始まる」と書かれていましたが、実際にランニングはされるんですか?

山崎:外は暑いし、商店街の人に迷惑をかけるので、多分やらないです。いいやり方を探している途中ですが、例えば4‐5人くらいならランニングしに行ってもそれぞれのムーブメントを共有できるので可能ですが、多くなると無理ですね。もちろん、構造は伝えますが、みんなで共有できるかどうかは不安です。ただ言えることは、ランニングをベースにしてのインプロのストラクチャーは膨大に出来ます。ランニングというのは、僕にとってはステップが絶えず変化していくことなので、その考えを身体の部分や、シチュエーションに応用し、どんどん試していくことが出来ると思います。

ー複雑なランニング(ダンス)が展開されて行くということですか。

山崎:ランニングに関しては複雑ではないんですけど、絶えず新たな感覚を呼び起こし変化することから少し違った次元に誘う感じです。例えば、未明の3時頃起き出して、へんてこ言葉を書き出し、少しお酒が入りつつ言葉と遊ぶ感じ、また、釣りの場合だと見えない海面下の世界に想像力を働かせ魚と遊ぶ感じ、それがダンスの場合だと、ダイレクトに自身の身体と遊ぶ感覚が身体にかえってくるという、とんでもなく強烈な体験ができます。

作品は、そういうことも踏まえながら、絶えず変化している様を提示するとともに、まさにフラクタル的に、バラバラの中に全体の大きなうねりを見出したいですね。あとサイレンス、静謐な身体も、重要な要素になると思います。それと去年同様、どうしてこの場所でこのダンス公演を観客の皆さんと共有する意味があるのかという問いに対する一つの模索として、舞台と観客席をなるべく分けず、作品がその場所から湧き上がるような作品の立ち上がり方を構想していきたいと思います。

ー今とても作品制作において具体的なことをお聞きしましたが、私は山崎さんの作品を観て受ける印象としては、何か混沌とした複雑な中にも、許容や希望というものが滲み出てくるということが山崎さんのスタイルなのかなと感じています。

山崎:ありがとうございます、嬉しいです。今からワークショップもクリエーションも楽しみですね。どうぞよろしくお願いします。

田中:今日はどうもありがとうございました。

 

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