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【K-ACDF】余越保子インタビュー | BLOG | NPO DANCE BOX

2017.10.26

【K-ACDF】余越保子インタビュー

INTERVIEW

家族とは、何をもって家族とするのか。そのあり方とは何なのか。

そして黒沢美香の「不在」と残された私たちの責任。

振付家の余越保子さん(以下、略敬称)にお話を伺いました。

 

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-余越さん宜しくお願いします。今回、この旧K邸でパフォーマンスなんですよね。

余越:はい。

 

-展示について…映像上映って聞いているんですけど、先ずはその辺りのお話から聞かせてもらって良いですか?

余越:はい、映像は2種類あります。1種類は公開したことが全然ないんですけど。黒沢美香さんのご両親の黒沢輝夫先生と下田栄子先生が主催した「まだ踊る」っていうとても不思議なタイトルの公演が2010年に横浜であったんですが、その時美香さんのご両親はすでに80歳を過ぎていたと思います。それでも踊るーたぶん「ダンスっていうのは死ぬまで踊るんだ」というのが、このダンサーの家族全員が持っていた信念だったと思うんです。私はその公演の舞台裏に付いてですね…ずっとカメラを回したんですね。当時、美香さんと首くくり栲象さんを映像で撮っていて、その経緯から面白いイベントだなって思ってカメラを回させてもらったんです。最初は舞台裏の美香さんを追って撮ってたんですけども、お父様が何十年ぶりに金粉ショーをされるって言うので。80歳を過ぎていたと思うんだけども、金粉を塗ると呼吸ができないから体に負担がかかるんですよね。だから大丈夫かな?って結構家族で心配していたのもあって、美香さんの弟さんが、この方はダンサーではないのですが、珍しく家族に参加されて、お父さんの体に金粉を塗るわけですよ。

-舞台裏で。

余越:そう。ご両親はコンクールに出場するダンサー達を育てるっていう仕事もされていて、舞台裏にはその子ども達が何人かいました。その時の、もう孫みたいな年代の子ども達に、80歳超えた現役ダンサーのお父さんが笑いかけながら、ご自分の息子さんに金粉を塗ってもらっている、っていう情景を撮影しながら「すごいなぁ」と思いました。これをいつか世の中の人に見て欲しい思っていたんですが、でも、全然そういう機会がなくてずっとお蔵入りしてたんですね。

今回のアジコンが「家族」のテーマということで、それを含めた映像を出展してみようかなと思いついたんです。それで美香さんのお母さんにそのビデオを送ってOKを出してもらったんです。その時美香さんはもう亡くなっていて。そして、当分したら、今度はお母さんが亡くなられてしまって。結局、舞踊一家の黒沢家が、舞踊家ではない息子さんを残して、絶えてしまったということに私たちは立ち会っているということです。だからそういう意味で、(チラシを指しつつ)山下残さんの作品で「伝承」っていうのがありますけども、古典芸能の“伝承”は基本的に、親から子や師匠から弟子へという伝承が確実にあるから残りますが、現代舞踊やコンテンポラリーダンスとなるとなかなか難しい。そのことを、年齢を得た最近よく考えるようになりました。

それで、今回は美香さんの不在をインスタレーション(展示)することにしました。展示に伴うパーフォーマンスでは、美香さんのパートナーの首くくり栲象さんと川村浪子さんが立ち会ってくださいます。

 

-パフォーマンスがある時間と展示だけの時間、時間によってそこで流れている映像、素材が違うってことですか?

余越:そうですそうです、違います。

栲象さんと浪子さんが立ち会う時は広島で撮影した映像が流れます。広島の大崎島っていう所にある私の祖母が残してくれた古い家があって、みんなで合宿をして撮ったときの映像です。今回古民家(旧K邸)をロケーションに選んだ理由っていうのは、当時撮影されたときの家に限りなく近づけようというのがありました。この映像は、わたしのダンス作品の『ZERO ONE』の中でずっと使用してきた映像で、その時は舞台上で双子の福岡まな実と福岡さわ実が踊るライブパフォーマンスとその広島で撮影した映像とを並行に並べて、ゼロとイチの間を思考するダンス作品でした。今回は映像の中の人たちが表に出て来て、あのときの情景が現在の視点で再現されます。『ZERO ONE』を見た人にとってはちょっと面白いかもしれない。私も今回初めての試みなので…どうなるのか…

 

-そっか、逆のアプローチってことですよね。

余越:そうですね。

 

-う〜ん。なるほど…すごい…。

余越:一方、展示で流れる「まだ踊る」の映像は、全く編集してなくて、美香さんの舞台入りから本番が終わるまでずっと撮りつづけた映像です。あっ!もう一個、通し稽古が入ってるわ(笑)。クロちゃんスタジオでご両親と美香さんが初めて通し稽古をしている時に、美香さんがダメ出しをしたり…。プロデューサーとしての采配ぶりが伺える映像も。美香さんが亡くなって一年ということでメモリアルイベントがありますよね。今「黒沢美香」の不在についてみんなが思っている。美香さんと関わりがあった人が自分も含めてそれぞれ色んな思いを抱えて一年を迎えていると思います。

 

-私もHangman Takuzo映画は観させてもらったんですけど、なんかこう、奇しくもあれもこれも家族というか…。みんな本当は家族じゃないけど、一つの場所と時間を共有していて、生と死の瞬間の時間も不思議と一緒に居て。一緒に居ることが家族とか家族じゃないとか、色んな事を感じた記憶があります。Hanguman Takuzoの映像を撮ろうと思ったきっかけというのは何だったんですか?

余越:きっかけはですね、その大崎島にある家が私の家族の歴史が詰まっている家でして。というのは、うちの母方はその大崎島出身なんですけど、家族が船の事故でほぼ全滅してしまったんですよね。その家に母が養女として行って、父とお見合いで出会って、私たちが生まれて…。だから私が生まれたのは家族がほぼ全滅したからと思うところがあります。たくさんの家族が死んだ事によって自分の生があるっていうことが自分の中にあります。そして今あの島の辺りには、私の血の繋がった家族がまだ海の底に沈んでいて…なんというのかな、言葉で言い表せられないですが。。。先祖の霊を黄泉の国からおろしてライブで交信するという試みの「Shuffle」というソロ作品をニューヨークで作ったんですけど、その辺りからそういう家族の生と死について、島にまつわるお話がずっと続いているわけです。その次の「what we when we」という作品も島で映像を撮ったし、つぎの「Tyler Tyler」もそこで映像を撮ってます。自分の中ではいつも作品に入っていることなんです。

ある時、あの家で夫婦が住んでいる映像を見たくなったんですね。それで美香さんと栲象さんに「島でふたりの映画を撮りたい」って言ったんです。そしたら「ぜひ!」ということで、その時に美香さんが浪子さんも呼びたいと。その頃美香さんにとって川村浪子さんというのは理想のアーティストだったんですね。でも、ただ呼ぶとなったところで「何役で出んの?」となって。「栲さんのお姉さん役でいいんじゃない?」みたいに適当な人間関係のマップだけは作って(笑)、台本も何もなく撮りました。だから毎日毎日違う形の内容で撮ってたんです。そうすると10時間くらいになって。その中に美香さんが栲象さんに「なぜ首を吊るのか」というインタビュー映像があるんですけど、そこを抽出したのが『ZERO ONE』で使われた映像になりました。

 

-浪子さんを呼んで、栲象さんのお姉さんに配役するということですね。登場人物に役付けをされたんですか?

余越:なんとなく。。。私の中で、浪子さんと栲象さんが繋がっているという位置付けはありました。美香さんから、ふたりがよく舞台に一緒に立つというのを聞いていたので。浪子さんが裸体歩行するといっても島の家は小さいから、家の中をぐるぐる回るしかないでしょう?それで、廊下を通って、台所を通って、板間を通って、また廊下みたいな。ずっと回ってる。ひたすら浪子さんが裸で歩行して、最後に弟の栲さんに会いに来るという想定で撮りました。浪子さんが会いに来て「栲象さん!」って呼びかける。それが一括りで映像になってる。

 

-え?しゃべる?

余越:喋る。そうなってる。でもそういう風に『ZERO ONE 』では使っていないんですが。でも撮影してるときには私の中ではそう演出して撮ってます。

 

-映像では、ストーリーに感動というよりも、一人一人の存在がすごく立ち上がっていて、その関係性はそんなに分からないのですが、すごく匂いがあるように思いました。

余越:たぶんそれは私が振付家だからかもしれないです。映画監督や演劇の演出家だと台本とかキャラクターとかお話の設定とかを作ると思うんですけども、私はダンスの振付家なんで、基本的にはお話を伝えるとかよりも、ダンサーの存在が作品なわけです。大切なのは、どういう動機でダンサーを動かすか。それが振付家の仕事だから、ダンサーの輪郭を際立たせることにすごく偏っちゃうんでしょうね。

 

-今回は、その映像を元にパフォーマンスに立ち上げられるのでしょうか?

余越:ちょっと分かんない。栲さんと浪子さんが現場に現れないと分かんない。浪子さんに電話で出演を依頼した時に「私わがままだから、何するか分かんないわよ。」って仰ったんです。確かに浪子さんは制御不可能な演者なので、こうしてくださいって言ってもそうにはならないと思うんですよね。だからちょっと分かんない(笑)

 

-今回、浪子さんには始めてお会いします。どういう方なんですか?

余越:浪子さんはもともと現代舞踊家で、ダンスを踊っていたと聞きます、ダンスのフォルムとかテクニックや振付の縛りの枠組みにすごく嫌気がさしてアメリカに渡るんです。そしてそこで、トリシャブラウンとかに多大なる影響を与えたアンナ・ハルプリンのワークショップを受けるんですよね。彼女(アンナ・ハルプリン)が何をやったかって言ったら、そもそも身体が持っている可能性を押し広げたんです。いわゆるただ歩くとか人を運ぶとか行為とか、そういう所作もダンスじゃないかと問いを投げかけた。そういうコンセプトを最初に提唱したすごいアーティストです。浪子さんはその人のところに行って、目覚めて帰って来て、歩行だけでダンスを始めました。歩行しているうちに段々と“裸体歩行”に移行していったと。浪子さんは“裸体”がその辺にある石やら雲とかみたいにそこにただ立っているだけ、という状態を求めて歩行し続けるパフォーマンスを突き詰めた人です。

 

-その浪子さんと栲象さんと、そして美香さんと。今回は三日間の映像の展示とパフォーマンス。どっぷりですね。

余越:そうですね、濃いと思う。こんなの最初で最後じゃないですか(笑)。

 

-美香さんが亡くなってちょうど一年というタイミングですね。

余越:お母さんもね、この前亡くなられてしまった。

 

-なんか色んな思いが交差します。

余越:このタイトル、「自分の頭を横たえるところが自分の家」というのは「メタリカ」というヘビメタのバンドの歌詞の中に出てくるものなんです。

 

-でもこれ、とてもグッとくるタイトルだなぁと思って。

余越:アーティストって移動が多いでしょ。私みたいに日本から離れて、戻ってきた時30年以上過ぎていたとすると、もう自分の家がどこか分からなくなる。歌の中で ”Where I lay my head is home!” (自分の頭を横たえるところが自分の家)って言っているんですけど、「確かに!」って思った。家ってなんなんだって。生まれて育った家で死んでいく人なんて、最近あまりいないと思います。どうなんだろう。人と家ってすごくこう不思議な…日本の古典芸能の世界の考え方ですが、人間はただのパイプラインで家に属して生まれては消え、その家の名前だけが残っていく、というのがありますね。

 

-家族っていっても、どこで誰がどの家族で生まれ育って、結婚して、家を出て。じゃーその生まれたとこの家族と別れたら家族じゃなくなるの?とか。

余越:美香さんと栲象さんの関係性も、アーティストならではの家族のあり方だったと思うんです。

 

-一緒に住むとか、届け出を出すとかその辺り。人によっていろいろ考え方が違うものだと思います。

余越:今回のフェスを通して、アーティストの家族の目線はなんだ、だと思った。少なくとも私はそういう風に考えた。そこから一人のダンサー、アーティストとしての「余越保子」の家族ってなんだろうと考えた。私はアーティストとして誰から受け継いだものを持ってこれから生きて、ここに残して去っていくのかとか、そういうのも含まれています。

美香さんは日本のダンスの歴史の大事な一部です。ご両親もダンサーですから、美香さんは、ご両親から受け継いで生き抜いた。その家族が消えた時、残された我々はどういう風に残されたものを扱うかという責任があります。自分は彼らの映像をたまたま持っているので、やっぱりそれは世の中に知ってもらいたい。見てもらうことで存在を、彼らのダンスを、知ってもらいたい。そういう気持ちは強くありますね。Hangman Takuzoの映画を海外で見せる特に、国外では、栲さんも美香さんも無名なので、そういう無名のアーティストを海外の観客にどう伝えるんだという責任、それを重く感じました。

 

-美香さんの「不在」と仰ってましたけど、すごく突きつけられますね。

余越:それぞれがね。

 

-ではそろそろ、会場の下見に行きましょうか。ありがとうございました。

余越:ありがとうございました。

 

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余越保子『自分の頭を横たえるところが自分の家』

2つの家族が交差します。7年前、4名のアーティストが瀬戸内海に浮かぶ島の古民家で、共に暮らし映画を撮影しました。家族的とは言えない、ある家族のかたち。この映画をテキストにしたライブパフォーマンスと、展示ではもう一つの家族のかたちが現れます。今は亡き黒沢美香とご両親の記念碑的ダンス公演「まだ踊る」の舞台裏を追ったドキュメンタリーを展示し、戦後の現代舞踊界を牽引し続けたあるダンスファミリーの軌跡に眼差しを注ぎます。

展示:120分 パフォーマンス:30分

 

〈展示〉

#1 11月23日(木/祝) 11:00〜13:00

#2 11月23日(木/祝) 16:00〜18:00

#3 11月24日(金) 11:00〜13:00

#4 11月24日(金) 16:00〜18:00

#5 11月25日(土) 11:00〜13:00

#6 11月25日(土) 13:00〜15:00

#7 11月25日(土) 15:00〜17:00

 

〈パフォーマンス〉

11月23日(木/祝) 15:00 / 19:00、 24日(金) 15:00 

会場:旧K邸(神戸市長田区駒ヶ林町4丁目3 - 10)

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